今日はあの憎っくき稲置涼子の話をするのじゃ。
あぁもう、名前を言うだけでも反吐が出そうじゃ。もっとも、いまはこの汐碕にはもうおらぬがの。今度はどこに潜伏して悪巧みを考えていることか……。
方々から尋ねられるのがあの稲置の独特の肌じゃな。
左手と左足が黒くなっておる。
誰しもが目を引くところじゃな。
ぶっちゃけてしまうと、アレは翼じゃな。稲置には真っ黒な竜のような翼があるのじゃ。光人と同じ 3 対じゃな。それが普段は螺旋状に身体を覆っておるのじゃ。覆っていない部分は白い肌、覆っている部分が黒い肌となって現れておるというわけじゃ。
じゃが、そもそも稲置ならばそんなことをしなくても翼そのものを隠し通せるはずじゃ。それをわざわざ色の違いとは言え、見える形に表しておるのは、彼奴なりの戒めらしいぞ?
自分を悪魔だと忘れないための、な。
そして奇異な存在であることを主張するための、な。
逃げも隠れもせんと、そういうことなのじゃろうな。
そして誰も触れることができぬ存在でもあるということなのじゃ……。