ずいぶんと間があいてしまったのう、元気にしておるか?
妾は元気じゃ。
8 月はな、バカンスに行っておったのじゃ。とはいえ、半分里帰りみたいなものじゃがな。ホラント家は今で言うドイツ出身でな。もっとも国をあとにした頃、ドイツという国はまだなかったがの。
夏になると賢者会議というものが、そこで行われるのじゃ。賢者というのはこの場合、人間の枠を飛び越えてしまった者達のことをいうのじゃ。妾や……そうじゃのう、神宮司もいずれはそうなろうの。人間の枠を超えたというのは、例えば寿命がなかったり、人とは思えぬ力が使えたりなど、さまざまじゃな。

この地球に人間は 60 億以上いるそうじゃが、賢者はそのなかでも数えるほどしかおらぬぞよ。それだけ賢者になることは大変と言うことじゃ。

さて、妾が日本を離れておったあいだ、日本は猛暑で大変だったそうじゃのう。おかげで我が市が避暑地として大盛況だったそうでな、ホテルなどは連日満室だったそうじゃ。不況で街全体もいまいち活気が足りなかったからのう、暑さが思わぬ需要を呼んだようじゃ。

というわけで今日は我が汐碕市の物価の話をするぞよ。
汐碕市は空に浮いていることもあってな、どうしても物流コストが高くなってしまうのじゃ。従って物価は実は割高なのじゃ。汐碕市の中で作れる物は物価はかわらんのじゃが、大人の事情もあってな、それらも高めに設定されておるのじゃ。
よく山の上のジュースの値段がたかかったりするじゃろ? アレと同じじゃな。つまり汐碕市は山頂の値段というわけじゃ。さらに天候などで物流が止まってしまうことがあったりするのじゃ。そうなるとさらに物価が上がってしまう。そういうことがないように一応、各品物には上限の値段というものが決まっておるのじゃ。
この上限は東京の物価を基準に決めるのじゃ。そしてその上限を超えるようなことがあった場合は、その分を我がホラント家が補填するようになっておるのじゃ。
もっとも補填されるのは生活必需品だけじゃがの。趣向品には補填はせぬのじゃ。

そんなわけで、実は経済的には汐碕市はちょっと暮らしづらいかもしれぬのう……おっと、市長がそんなことを言ってはいかんな。

ところで、じゃ!
賢者会議の中に、ムカつくヤツがおったのじゃ。
あの憎き……!! ええい、名前を思い出しただけでも怒りがこみ上げてくる。しかもすました顔で妾に堂々と話しかけてきおったのじゃ! ま、まぁ、この話は、次に話すとするぞよ。