黒翼の側近(ヘンチマン)に月夜野ちあらという者がおる。黒翼に太陽を授けられた者じゃ。
「天使の規模」のところで話したが、黒翼は宇宙規模の天使であろうと推察されておる。つまり恒星をどうにかするということは、造作もないことなのじゃろう。月夜野ちあらに太陽を託したことによって、この地球上に膨大なエネルギーが存在することとなったのじゃ。
じゃが、事はそう簡単なことではないのじゃ。そもそも太陽を人間の心臓サイズにまで小さくしたら、シュバルツシルト半径よりも小さくなり、ブラックホール化してしまうからじゃ。例え魔の力とはいえその法則には逆らえないはずじゃ。ということは月夜野ちあらの心臓が太陽になったのではなく、おそらくじゃが、どこかに捉えられた太陽があって、その空間とちあらの心臓がつながっているという仕組みじゃと妾は推測しておる。
太陽の大きさもわかっておっての、我ら太陽系の太陽のおよそ 45 ~ 55%ほどの質量じゃ。その寿命は長く 1400 億年と見積もられておる。そしてそれが月夜野ちあらの寿命ということになるのう。
こうして月夜野ちあらは太陽から自由にエネルギーと重力(質量)を取り出すことが出来るようになったのじゃ。
これはまさに「ダイソン球」であり、黒翼から人類への贈り物でもあるのじゃ。
なぜ黒翼が月夜野ちあらのような存在を作ったのか。この地球上に恒星を供するのはオーバースペックなのは誰が見ても明らかじゃ。それでも黒翼は月夜野ちあらをこの星に置いた。この意味するところは、いずれ月夜野ちあらを必要とする出来事がその先に起きるという黒翼なりの予言じゃと妾は考えておる。
たとえば巨大な隕石が地球に衝突するとか、スノーボールアースの時代が再びやってくるとか、もしかしたら我らの太陽そのものが失われることもあるやもしれぬ。そのような全人類が滅びるような危機が訪れたとき、月夜野ちあらの太陽が必要となるのじゃろう。そしてもう一つ、おそらくその危機とやらが我々人類に迫ったとき、黒翼や天使たちはこの地球から去っているのじゃろうのう。
月夜野ちあらは人間がもつ「自由意志」を剥奪された、唯一の人間と言えるかもしれぬ。